浅き夢見し(4)老人の夢

 夢が姿になる。だんだん輪郭が固まってきた。甲羅に似せて穴を掘る蟹になろう。世界並みのことは考えず、日本の小さなサーマルに見合ったグライダーを楽しむ世界を作ろう。皆が頭を固くして思考停止しているのなら、仕方がないから自分でやろう。 3種のグライダーは無理と分かったから止めだ。時代にも合わない。ならばULG(ウルトラ・ライト・グライダー)というジャンルを開拓しよう。難関はいくつもあるだろうが、世界には立派なカテゴリーがある。
拠って立つには旗を立てねばならぬ。旗印の第1は老齢化社会のスカイ・スポーツを作ること、としよう。対象がシルバー・エージ。名付けてアサヒソアリングクラブ・シルバー・スコードロン。語らって定年退職した人たちを集めよう。高齢化社会にふさわしい。だからといっていかにも老人臭いのは嫌だ。空を飛びたいといったらカッコ好い。 本音は関宿でウイーク・デイ運航をすること。可能な人たちの筆頭がまず定年退職者だ。 「我と来て遊べや暇な老い雀」
そうなるとスコードロン発足のころは集まれる人は多くない。それに老人ばかりだから体力がない、機体の組み立てに難儀するのはダメだ。したがって小さくて軽い機体が歓迎だ。その点ULGははなはだ都合が良い。
第2の旗印は「環境に優しい」ことだ。グライダーは音がしない。排気ガスも出さない。気流に乗って飛ぶ。もっとも環境に優しい航空機だ。これまた今の世の中にピッタリ合っているではないか。老人はウイーク・デイに飛び、若者がウイーク・エンドに飛ぶ。老人は条件に良い日を選んで飛び、だから空に助けられて飛べる。そして若い人に言う「今週は5時間を2回も飛べたよ」。カッコイイ!
年金生活者には飛行機曳航料がひどく負担になる。しかもウイーク・デイとなると回数も多くなるだろうし負担は大きすぎるのだ。どうしても1回の曳航料が安い必要がある。飛行機は諦めウインチ。さらには自動車曳航や斜面発航が面倒にならないグライダーを考えた。もし自動車曳航で300mが獲得できるのなら検討する価値はある。それに斜面での運航が可能ならそれも勘定に入れたい。いずれ曳航料は飛行機の半額以下が狙いだ。
自動車曳航や斜面となると、機体が小さくて運搬が容易、取り回しが便利な機体ということは大事なことになる。もしトレーラーを使わなくても運搬できたら笑いが止まらない。ここでも答えはULGになる。
ULGはULPに順ずる。ライセンスが別の世界だ。さりとて空をいい加減にする気は無い。むしろもっと鋭角な世界だと思っている。いうならばイギリスの空の姿勢があるべき姿だ。自分で自分を律する。そうあらねばならない。作るべきULGは空の掟をちゃんと守る。法律に縛られなくても自分で守る。方策はある。
ともかく普通のグライダーは使わず、普通のグライダー・マンとは違う人々で始めよう。これが1998年のこと。ULGに達したのが2001年。面壁すること3年だ。宮沢君がアドバイザー。インターネットで見つけると伊藤さんに相談し佐藤さんに相談したが、みんな帯に短く襷に長い。条件をクリアーできずにボツになる。探してはボツ、探してはボツ。 心情「男子志を立て郷関を出ず、学もし成らずんば死すとも帰らず」滅多には諦めない。
ULGに替えたら道が見えた。アメリカにSparrow Hawkというグライダーがあった。自重70kg、スパン11.1m、全長6.3m、滑空比32、最良滑空速度85km/h、最低沈下率0.64m/s。まず性能はそこそこである。しかも軽くていかにも老人向き、けれども$26,000にはカネがちょっと足りない。けれども光が見えたぞ! もうじきだ!
好事魔多し。これが世の常クラブの経済が破綻し、あわや離散の運命。ウームと考えた。拠って立つのはクラブである。クラブが無くなればULGの同志も無い。こりゃあ運命だ。オレひとりより皆が飛べる算段が大事だ。かくてひとまずULGは老人の浅き夢。

 ◆Sparrow Hawk HP

>>浅き夢見しへ戻る>>