浅き夢見し(5)忘年会

悪いことは忘れてしまおう。それが忘年会の趣旨なのだろうが、しかし忘れ難い年もある。私にとって今年はそんな年だった。
初めのころ、グライダーをやっている人たちが不思議だった。やっていることは特別な意味があり、やっている人たちは選ばれた特別な人で、だからどんなことをしても許される。それが受けた印象だったのである。人格は別世界なのだ。とても厭だった。この人たちは何の根拠があって空を冒涜するのだろうと思った。
普通の人の、常識が支配する、普通のグライダー・クラブ、がモットーになった。
今年はそれが足元から崩れそうになった。目がテンになる異常な金の流れがあり、クラブが破産しそうになった。何人かの人たちが勇気を持って懸命に普通を維持しようと頑張って、かろうじてモットーが守られた。本当に安堵した。これだけで十分忘れがたい。
私個人のことではないかもしれないが、初心が守られた感謝は忘れられない。
事故があった。原因や結果を忘れてはいけないが、立ち直ろうとする努力は感動的だった。一人で飛べる人も、仲間のために複座機を手に入れようと頑張った。援助は丁重に断られたが、その理由に心が打たれた。「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という諺がある。私の別のモットーでもあるのだ。クラブの実力にふさわしい努力をする、というのがいい。クラブは本物になったと思った。
あまり精度が良くないサーマル・トップの予報を出している。予測の精度を上げるためにはデーターが必要なのだが私には方法がない。メールに皆が実績を報告してくれるようになった。なぜ外れたのか、外れる程度はどのくらいか、だんだんに解るようになるだろう。グライダーを知的なスポーツにしたい初心が、10年ぶりに満たされる。特にムトウ君のGPS軌跡はサーマルの位置と流れる方向を示してくれるから、トリガーとスワースの謎解きをしてくれるだろう。そんな年を忘れてなるものかと思う。
最後は私事になるが、大患を背負った。一病息災というには重すぎる感じもするが、これは付き合っていくしか仕方がない。忘れると命が尽きる。
忘れたいこの多い年もある。忘れられない年もある。

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