(1)いちばん有名なモーターグライダー

《スペースシャトル・オービター》


NASA/Kim Shiflett

 私はごく平凡なサラリーマンである。休日や祭日はアサヒソアリングクラブで教官をしていて、人に趣味を聞かれるとグライダーと答える。たいがいの人はパラグライダーしか思い浮かばないらしい、しばらくはトンチンカンな問答になる。ましてやモーターグライダーというと、姿カタチをほとんどの人が想像つかない。ちなみに私はモーターグライダーの教官もやっている。
だいたいモーターがいけない。普通モーターは電気で動くものと思う。だから想像はいよいよ難しくなる。ようするにモーターはエンジンなのである。たぶんドイツ語の影響だろう。グライダーの本場はドイツなのだ。エンジンだからレシプロはおよばず、タービンもあるしロケットだってある。もちろん電動だっていい。
グライダーをほとんどの人は見たことがないから無理もないが、説明してようやく解ってもらえると今度は羨ましいと言う。あるいはこの国では、本式の航空機はサラリーマンにそぐわないのだろうか。
 何年か前、ドイツでしばらく修行した。フランスやオーストリア、スイス、イギリスなどでも飛んだが、残念ながらどこの国でもグライダーを知らないという例は無かった。
ある日曜のことであった。昼頃に雨がパラついてきて、何とはなしにフライトは中止になった。クラブカーの中は満員である。
クラブ員は多士済々。電気屋さんがいたり看護婦さんも居る。東芝のサラリーマンが居るかと思えばJRの人もいる。大学の教授もいれば主婦もいる。こんな時の話題はとりとめがない。あちこちに跳ぶ。
「いちばん有名なグライダーは何だ?」
「スペースシャトルだろう」
「いや、あれは宇宙往還機だ」
「違うよ、れっきとしたモーターグライダーだ」
「小さいけれど、胴体にアメリカ航空協会の名が入っているの知ってる?」

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