(5)オービター

 帰還回路に乗り、大気圏に突入してからはどう考えてみても、スペースシャトルはグライダーだ。エルロンがありラダーがありスピード・ブレーキがあり、大気の中を滑空して降りて来る。ただしアスペクト・レシオ(縦横比)が2.27、翼断面がNACA0010ではちょっと悲しいグライダーではある。


NASA

 もちろんマッハ25で飛ばなければならないのだから、普通のグライダーのように、アスペクト・レシオが20もあったら、たちまち翼は折れてしまうだろう。 翼は前縁が81度と45度のダブル・デルタで面積は250㎡、ロード無しで降りて来るとすると、70トン弱だからウイング・ローディングは280kg/㎡となり、せいぜい30kg/㎡のグライダーの10倍になる。しかしジャンボの最大着陸重量のときの500kg/㎡に較べれば、半分ほどしかない。
グライダーの性能の、第一の目安は滑空比だ。風もあり下降気流もある現実の空では、滑空比40のグライダーは30のグライダーの2倍近い能力がある。向い風が吹き、少しでも下降気流があると、滑空比で-20くらいの影響がある。滑空比30のグライダーは滑空比が10に落ち、40のグライダーはそれでも20を保つ。もし45のグライダーなら滑空比は25で、まだ立派な性能をもっている。クラブクラスに乗っている人に、これはクヤシイ!
オービターの大気圏内でグライダー・モードで滑空できる距離は1,760kmだそうな。計算してみると高度50km~40kmまでの滑空比は43、40km~20kmの滑空比は22である。もちろん恐ろしい勢いで減速しているから距離が伸びるのであって、オービターの翼の効率ではない。
大気の上面、どちらかというと宇宙船軌道にあるときに距離がでているのは、平らな石を水面に投げたのと似ている。石は水面を滑ってエネルギーを失い、最後は急角度で沈んで行く。
大気の密度が大きいところでは、マッハ4~2の最良滑空比は2弱、マッハ0.2でも5くらいだ。アスペクト・レシオが2とちょっと、翼型がNACA0010を考えると、さもありなんという性能だが、ヘリコプターのオートローテーションよりは遥かにいい。しかもほとんどはマッハ2以上で飛んでいるから、風で性能が落ちる心配は少ないだろう。
滑空比が30とか40のグライダーは、最小沈下率が毎秒0.6mかそこら。場所が良ければ幾らでも浮かんでいられる。滞空時間など競っても何の意味もない。大げさにいえば、餓死するまで飛んでいられることになる。距離にしても理屈は同じだ。記録は2,026kmになっているが、それにあえて挑戦しようとする者はいない。すでに情熱をかきたてる目標にはならないのだ。
スタンダードや15メートルクラスの競技機は、滑空比40か45をどんな速度で出すかが問題なのだ。速くなくてはいけない。だから15メートルクラスのフラップはネガティブに作動し、空気を抜いて速度を出そうとさえする。翼型は例外なく層流翼なのだ。NACA63などはもうすでに古い。このあたりが並の軽飛行機と違うところだ。
130km/hよりも140km/hのグライダーである。競技に強いグライダーとは速いグライダーなのだ。その点オービターは、文句無しに世界最高のグライダーだ。なにしろマッハで滑空する。しかもタッチダウン速度でさえ、334km/hもある!
「マッハで飛んでもグライダーはグライダー、僕のジュニアはマッハ0.1で飛ぶぞ!」。コーラにむせながらもジュング氏はまだ頑張っている。「そうだ!、そうだ!!」。

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