研究室(1)空を耕す

 ソアリングの本を読むと雲の話しが多く出てきます。ある種の雲は上昇気流の現在進行形か、さっきまでの上昇気流の跡ですから、雲を読むことは理にかなっています。たぶんたくさんの雲を知ることはソアリングの本道なのでしょう。
しかしそれほどの達人になれない多くの人には、もっと手前に上昇気流を読む方法が無いのでしょうか。楽しむために飛ぶ人にとって、ガイドとなる方法があっても良いと思います。手軽な方法が、道を極める入り口にあっても良いのではないでしょうか。
雲は上昇気流の結果です。結果から類推するよりも、原因を追究したほうが本式らしく思えませんか。

50kmの日

怪鳥が50kmを飛んだ日はまったくのブルーでした。情けないことに怪鳥はサーマルの原理が分かりません。なにしろこのときの怪鳥はグライダーが13時間と57分でしかありませんでしたし、発航回数は23発です。
怪鳥はすがるように空を見上げました。雲の下にはサーマルがあると聞いていたのをかすかに思い出しているのです。でも無情にも雲はありません。血走った目がほかのグライダーを探しました。グライダーが旋回していればそこには上昇気流があるのかもしれません。ですが発航が遅れたせいかほかのグライダーの姿もありませんでした。
怪鳥は1,500フィートに足りない高度で離脱しました。強い上昇気流があったからです。必死にバンクしてサーマルにすがります。逃せばとても50kmには及びません。どうしてそこにサーマルがあるのか疑問にも思いませんでした。3,000フィートに達してやれやれと写真を撮り、目的地に機首を向けました。
見渡す限りのブルーです。怪鳥の足が震えました。少し進むと2,000フィートのなり、慌ててさっきのサーマルに逃げ帰ります。何度も同じことを繰り返しました。そのとき怪鳥の頭に歌がよみがえります。「オトコ度胸なら五尺のカラダぁドンと乗り出せ波の上」

途中の町が近くなり、もう1,000フィートしかありません。怪鳥は覚悟しました。グライダーはシロウトでも不時着は得意です。
ところがドスン。強烈な上昇気流が来たのです。怪鳥得意の左旋回に入れました。バリオが歌い針は躍動します。怪鳥すっかり嬉しくなりました。もっと上がれたでしょうが5,000フィートで考えました。エディは4,000フィートならここから目的地に行かれると話していたことです。「彼も人なり我も人なり」彼が4,000フィートで行けるなら、オレは5,000フィートで行かれぬはずは無い。
決心したときは5,300フィートになっていました。ほぼ25kmをファイナル・グライドです。もうブルーも何もなんのその。一直線に目的地。
しばらく飛んで気が付きました。高度がだんだん高くなるのです。もう高度なんかいりません。それならばと機首を下げました。スピードが上がります。さらに機首を下げました。ブルーの空を怪鳥が快調にすっ飛んで行きます。
目的地にはそれでも3,800フィートが残っていました。
後で考えました。日差しの強い日でした。風も吹いていました。途中の町は暖められ上昇気流が上がっていたのでしょう。ドスンはそこに突き当たったのです。風の強さや方向から、思い当たる気がします。何も知らない怪鳥が、運の良いこと犬棒式に突き当たりました。
町から目的地には舗装道路が延びていました。日差しを吸った舗装道路に陽炎が上ります。たぶん線状の上昇気流があって、運のいい怪鳥はその中を飛んだのではないでしょうか。怪鳥はシルバーを取りました。

空を耕す

 雲は上昇気流の結果です。そして原因は地形なはずです。怪鳥50kmの町も道路も原因でした。ブルーであれば結果を読めません。ですから結果を読む努力よりは、原因を読む努力をしたいと思います。
われわれの基盤としている関宿滑空場です。関宿付近のサーマルが立ち上る場所、風の方向、通る道など、空の広さからすればたかだか家庭菜園程度ですが、まずここから耕しましょう。
最初は5kmくらいから始め、次には9kmに広げ、20kmになり50kmになりして、遂には関東平野に及ぶのです。ある程度読めるようになればASCは無敵です。
ASCは天下を取るぞぉー!

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